WM DRM 10
Microsoftは2004年10月、Windows Media DRMの新バージョンであるWM DRM 10をリリースした。WM DRMはPD内の楽曲の時間管理が可能となり、PDへの転送を認めるサブスクリプション方式のサービスが実現する。米国ではNapsterがNapster To Go、RealNetworksがRhapsody To GoでPDへの転送を可能とする新たなサービスをスタートさせた。
自社DRMを持たないところはWM DRM
メジャーレーベルは、音楽配信サービスにDRM対応を強く求めてきた。2000年前後には独自DRMで参入してきたベンチャー企業が多かったが、権利を大手に売却して撤退・解散する企業が続いた。したがって、2004年の段階ではWM DRMのMicrosoft、FairPlayの Apple、Open MG Xのソニーぐらいしか残っていなかった。Appleとソニーは自社製品向けの独自仕様であり、それ以外のプロバイダーはWM DRMを採用するしか選択肢はなかった。
WM DRMのバージョン比較
したがって、WM DRMのPDへの対応の仕方によって、音楽配信サービスの内容は大きく変化してきた。WM DRMのバージョンによるPDへの対応方法と、それによって可能となった音楽配信サービスの内容を表にした。
■WM DRMのバージョン別機能
バージョン | リリース | PDへの対応 | 音楽配信サービスの内容 |
WM DRM 7 | 2000.07 | 転送の可否しか設定できない | 音楽配信サービスのほとんどがPDへの転送を認めなかった |
WM DRM 9 | 2003.01 | PD転送後の再生回数や他のPDへの転送の可否が設定可能 | ダウンロードした楽曲をPDに転送できるiTunes Music Storeと同様のサービスが多数登場 |
WM DRM 10 | 2004.10 | PD転送後の楽曲の時間管理が可能 | 会員期間中に特定のサービスを提供するサブスクリプション方式のサービスが可能となった |
WM DRMの技術的な問題については私の守備範囲外であり、ここでは詳細には触れない。しかし、PD内での時間管理を行なうために、WM DRM 10対応機器は時計を内蔵している必要がある。また、パソコンを介してインターネットで認証を受ける必要がある。Microsoftの最新のDRMは複数のクラウド端末をコントロールできるPlayReadyであるが、そのプロトタイプ的なDRMがWM DRM 10と言えるだろう。
サブスクリプションで劣勢挽回
2004年8月にRoxioから社名変更したNapsterは、2005年2月に米国でNapster To Goという新しいサービスを開始した。これはPDへの転送を認めるサブスクリプション方式のサービスであり、AppleのiTunes Music Storeに対抗するものとして大きな注目を浴びた。AppleのiTunes Music Storeでは1曲、もしくは1アルバム単位のダウンロード購入であるが、Napster To GoではPDへの転送が無制限となるのである。但し、会費は払い続ける必要があり、会員でなくなったと同時にダウンロードしてPDに転送した楽曲は利用出来なくなる。
RealNetworksはRhapsody To Go
RealNetworksは2005年4月、音楽配信サービスRealOne RhapsodyをRhapsody To Goにリニューアルした。Rhapsody To GoはNapster To Goと同じPDへの転送を認めるサブスクリプション方式のサービスであり、それを実現させるために独自DRMをMicrosoftのWM DRM 10に変更した。RealNetworksはMusicNetに出資、MusicNetの配信プラットフォームを利用してRealOne Musicを2001年12月にスタートさせた。しかし、2003年4月にはListen.comを買収、MusicNetとは別に新しいサービスRealOne Rhapsodyを立ち上げた。その後、ダウンロードサービスであるRealPlayer Music Storeなどの開設も行っていたが、MicrosoftのWM DRM 10を採用してRhapsody To Goを立ち上げるに至った。
WM DRM 10が可能にしたサービス
NapsterやRhapsodyのサービスが実現したのは、WM DRMがPD内の楽曲の時間管理を可能にしたからであった。RealNetworksは独自のDRMを採用してきたが、Rhapsody To Go開始とともにWM DRM 10に転換した。当時、AppleのDRMであるFairPlayはサブスクリプション方式のサービスには対応しておらず、Apple対抗陣営には巻き返しの大きなチャンスとの期待が高まっていた。